2009年4月16日木曜日

魚類免疫学080702Q&A

病原性を発揮する成分の遺伝子のみを欠損させた強毒株とはどういう意味か?強毒性だったらワクチンにはならない(投与すると発病する)のではないか?

もともとは強毒株であった菌体から、遺伝子組換えを用いて毒性に関連する分子をコードする遺伝子を除去した、という意味です。毒性と免疫原性(免疫応答を引き起こす強さ)は必ずしも比例するわけではないので、毒性を失わせた菌株でもワクチンとして機能することが期待されます。

 

免疫賦活剤をアジュバントとして利用することはできるか?

できるものもあります。もともとアジュバントは、抗原提示細胞を非特異的に活性化させる能力を持つ者があります。

 

なぜ原核生物由来のプラスミドが魚類のRNAポリメラーゼを機能させてタンパク質を発現させることができるのか?

原核生物に由来するプラスミドでも、真核細胞で機能するプロモーター配列を組み込めば、真核細胞のRNAポリメラーゼを働かせて遺伝子の転写・翻訳を行うことができます。

 

タンパク質以外の抗原にはどんな物があるか?

多糖、脂質などいろんな物質が抗原になり得ます。中には、金属やある種のプラスチックも抗原となる場合があります。それらの抗原の構造がT細胞にどのように提示されるかは不明な点が多いのが現状です。

 

β-1,3-グルカン投与魚/非投与魚間でmRNAcDNA)サブトラクションをするのに、投与魚と非投与魚で採取した細胞(組織)が腹腔滲出白血球/腎臓白血球のように異なっていても問題はないのか?

あの実験の場合は大きな問題にはなりませんでした。腹腔滲出細胞が腎臓から移動してきた細胞であることがほぼわかっていましたから。ただし、この種の実験では、何から何を引くか?という実験デザインが非常に重要で、そこに注意を払う姿勢は大変よろしい。

 

経口投与では投与量に個体差は生じないか?

各個体に均一な量のワクチンや免疫強化剤を投与することは非常に困難です。そもそも餌の摂取量を均一にすることさえ難しいし、抗生物質にも同じ事が言えます。

 

水産用ワクチンはどれくらい普及しているのか?

ワクチンが市販されている病気について、それを使っていない養殖業者はほとんどいないでしょう。水産試験場などの公的機関も、抗生物質を投薬するくらいならワクチンを予め投与しておくことを強く推奨しています。

 

免疫強化物質の効果もワクチンのように投与法によって異なるのか?

異なります。ワクチンと同様に、注射法>浸漬法>経口投与法の順に効果が高い傾向があります。

 

免疫強化物質の作用は魚種によって異なるか? また、その作用はどれくらい非特異的なのか(どれくらい広い範囲の病気に有効なのか)?

魚種による作用の差は質的にはあまりないと考えられますが、最適投与量が異なる可能性が高いですね。また、ある種の免疫強化物質(例えばβ-1,3-グルカン)は通常、グラム陰性菌の感染症とグラム陽性菌の感染症の両方に防御効果を示しますが、ウイルス感染をも防ぐことができるかどうかについてはまだ検討中です。(2,3の成功例はある。)

なぜ魚の造血組織は腎臓なのか?

 

β-1,3-glucan、アルギン酸ナトリウム以外に免疫賦活物質はあるのか?

研究室レベルでの結果を含めて、効果が認められている免疫賦活物質には次のようなものがあります。

1)菌体・菌体成分[β-グルカン、トルラ酵母処理物、結核菌死菌、ミヤイリ菌など]、2)多糖体[キチン、レンチナン(椎茸)、シゾフィラン(スエヒロタケ)、オリゴ糖]、3)動植物成分[ホヤ抽出液、キラヤサポニン、ホタルイカ抽出液など]、4)栄養素[ビタミンC、ビタミンA、ビタミンE]、5)生体成分(タンパク質)[ラクトフェリン、成長ホルモン、リゾチーム]。

  

アルギン酸ナトリウムの人体に及ぼす影響は?

食べても非常に安全性の高い多糖であると認識されていますが、体内に直接投与するとさまざまな生理作用を示し、とくに強い炎症誘起作用を示します。

 

アルギン酸ナトリウムのコイに対する免疫賦活作用を示すグラフで、投与量40 mg/kg体重で下がった効果が50 mg/kgで再び上昇しているのは何故か?

一番右のバーは、熱水抽出物全体の濃度として50 mg/kg体重を投与した場合です。熱水抽出物が、アルギン酸ナトリウム純度(相対濃度)が低いにもかかわらず、純粋なアルギン酸ナトリウムよりも高い効果を示した理由は、、、可能性を考えてみて下さい。

 

なぜアジュバントや免疫賦活剤にキノコや海藻由来のものが多いのか?

おそらく多糖類に効果がある場合が多いためと、特にキノコの場合はほぼ間違いなくβ-1,3-グルカンを含んでおり、それはひろく自然免疫を活性化する性質があるからだと思います。

 

免疫賦活剤の投与量が過剰だと効果が下がる理由は?

スルドイ質問です。まだ答えは得られていません。一つの可能性としては、好中球やマクロファージを過剰に活性化させて、過剰生産された活性酸素が周りの組織(特に細胞膜脂質)を傷つけて機能不全を招くのではないか、と考えられていますが、十分な証拠はありません。まだ仮説のひとつ、です。

 

mRNAcDNA)サブトラクション実験の原理を知りたい。

最新の方法は下記のマニュアルに解説されています。

http://www.clontech.com/images/pt/PT1117-1.pdf

 

免疫強化物質の適正量が個体によって異なる理由を詳しく知りたい。

はっきりとはわかりませんが、免疫強化物質を認識する受容体の発現量、その下流で活性化されるさまざまな免疫関連因子の濃度や活性などに個体差があるからだと考えています。

 

DNAワクチンが機能する仕組みは?

DNAワクチンにコードされている抗原遺伝子が、DNAワクチンを取り込んだ細胞内で転写・翻訳され、その翻訳産物(=抗原タンパク質)がMHCクラスIを介して抗原提示されて免疫応答を引き起こし、免疫記憶を誘導します。

 

水産用ワクチンを対象魚以外の魚に投与するとどんな悪影響があるのか?

1に、同じ種の細菌・ウイルスでも細かく見ると魚種によって病原性をしめす株が違います。菌やウイルスの株(型)が異なるとワクチンとして有効性が激減します。第2に、魚種によって適正投与量がことなるので、他魚種用を使い回すと投与量の制御が難しくなります。第3に、あるワクチンが有効であることがデータで証明されないと認可がおりません。ワクチンの代謝、消失などの速度も魚種によって異なるので、他魚種用のワクチンを流用すると投与した魚に於けるワクチンの残留量などを把握することができず、食品衛生面で問題となります。

 

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