2009年6月15日月曜日

水族生化学特論Q&A090609

補体古典経路の「古典」の意味は?
補体研究の過程で最も古く見つかった反応経路なので。

C3→C3a+C3bを触媒するMASP以外のプロテアーゼは?
無脊椎動物やヤツメウナギではMASPとBf(補体B因子)が触媒します。
有顎脊椎動物では、実はMASPの働きは弱くて、補体B因子かC2。
カブトガニではFactor Cという凝固系でも働くプロテアーゼがこの反応を触媒。
哺乳類では(試験管内では)トリプシンもこの反応を触媒しますが、生体内では起こらないでしょう(C3とトリプシンは局在が全く異なるので、ほとんど出会わない。)

補体活性化にネガティブなフィードバック制御は無いのか?
活性化を抑制するための成分も沢山含まれて、生体内での過剰な活性化を抑制する働きを担っていますが、ネガティブフィードバック(反応産物が直接抑制の引き金となるという意味)と呼べるほどのはっきりした反応・制御機構はわかってません。

様々な補体阻害剤はどの反応ステップを阻害するのか?
C1INH(serpinファミリーに属するプロテアーゼ阻害タンパク):C1を不活化
α2-macroglobulin: MASPを不活化
DAF、MCP、C4bp、CR1、factor H:C3を活性化するプロテアーゼ複合体を阻害
CD59:C9による膜侵襲複合体形成を阻害

「補体が過剰に活性化される」というのは具体的にはどんな現象か?
C3→C3a+C3bの反応が沢山進みすぎて、過剰に生じたC3bが標的のみならず、近隣の宿主(自己)細胞にも結合してしまう(糸球体腎炎などの原因)。同時にC3aや(さらに生じたC5a)が過剰に白血球を誘引・活性化して炎症を激化する(喘息発作などの増悪)
傷ついた細胞は補体を活性化してしまうような分子を表面に露出するので、自分に対して補体が働く。
などなど。

補体によって壊された臓器はどうなるのか?
最終的にはマクロファージによって貪食・除去されるでしょう。

α2マクログロブリンは、自分の(内因性の?)プロテアーゼも阻害するか?
します。このタンパクには自己・非自己を見分ける能力はありません。

ショウジョウバエ以外の昆虫でC3が存在するかどうかが調べられているか?
蚊の一種で調べられましたが、見つかりませんでした。

クラゲに刺された時の痛みは免疫系と関係があるか?
わかりません。密接な関係は無いと思います。ただし、クラゲとは関係ないかも知れませんが、我々の体内にはキニンという痛みを発するシグナルとなる物質があります。このキニンは炎症反応とも密接に関連しており、したがって免疫系の作用にも関係があるでしょう。(キーワード:ブラジキニン、カリクレイン)
http://homepage2.nifty.com/uoh/kiso/z_bradykinin.htm

免疫抑制剤の標的は何か?
主にリンパ球。その増殖を抑制する、活性化を抑制する、免疫反応に必要なサイトカインの作用を阻害する、などの作用がある。物質の例は、糖質コルチコイド(いわゆるステロイドホルモン)、シクロスポリンなど。

C3活性化の第二経路によるポジティブフィードバックを止める機構は?
C3b・Bb(C3活性化酵素)→C3b + Bbに解離させるタンパク質が血漿中や自己細胞上に発現している。
C3bを不活性なiC3bに分解するためのプロテアーゼ(I因子)とその補酵素(MCP、H因子など)が存在し、C3bBbの生成を抑制している。
などです。

C3を持つ動物と持たない動物の間で進化過程に違いがあるか?
わかりません。これからの研究課題です。

豚からの臓器移植における拒絶ではなぜMHC(主要組織適合性抗原)が関係しないのか?
移植片の拒絶に働くキラーT細胞は、疑わしい移植片のMHCに結合し、それが自己のMHCでなければ攻撃します。たとえばヒトとは異種のブタMHC日しては、それがMHCであることさえ認識できないので、キラーT細胞自身がそれをブタ臓器を異物であるとは認識できません。

溶解経路の反応機構をもっと知りたい。膜侵襲複合体(MAC)は五量体?
MACの組成は、C5b、C6, C7, C8までは1分子ずつでC9は4〜12量体と様々です。(動物種によっても違うし、同一種内でも幅があるらしい。)
総説
Walport MJ. Complement. First of two parts. N Engl J Med. 2001 Apr 5;344(14):1058-66.
Web
http://kusuri-jouhou.com/immunity/hotai.html
http://users.rcn.com/jkimball.ma.ultranet/BiologyPages/C/Complement.html
アニメーションによる解説
http://www.youtube.com/watch?v=vbWYz9XDtLw
http://www.youtube.com/watch?v=xcYSGRid50I&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=y2ep6j5kHUc&feature=related

何がきっかけとなって、脊椎動物の進化の過程でゲノムの倍加が2回も起こったのか?
きっかけや理由はわかりません。ゲノム全体の倍加は、通常は雑種化による四倍体化で起こります。(近縁の異種(2n)が交雑して、両種の染色体がそのまま残った状態。)

イソギンチャクの毒のようなMACPFドメインを含む毒素と補体系(の溶解経路?)を併せ持つ動物が存在するか?
イソギンチャクには補体の溶解経路は認められないので、いまのところは「存在しない」が答えですね。

BfのC3活性化以外の機能は?
わかっていません。C3以外の天然基質が見つかっていません。

C3と同様に、断片化されるにつれて生理活性が変移するタンパク質は他にはあるか?
広義に捉えれば、さまざまなプロテアーゼや活性ペプチドは不活性な前駆体から限定加水分解によって切り出されて活性化型に変化するので、断片化によって活性が変移していると言えますね。

Baitは疑似餌ではなく、釣りの(リアルな)餌です。
修正ありがとう。そうですね。ルアーが疑似餌ですね。

2009年6月10日水曜日

魚類免疫学Q&A090603

同じ抗原に対するB細胞でもIgMと作るものとIgGを作るものが同時期に存在するか? あるいはどのB細胞においてもクラススイッチが同時期に起こるのか?
ある程度オーバーラップします。全てのB細胞が一度にそろってクラススイッチしてしまうわけではないので。

すべての抗体は膜型と可溶型が存在するのか?
IgMとIgDのみ。

膜型と可溶型の機能の違いは?
抗原特異性に変わりはないが、たとえば膜型抗体は補体を活性化することはできないし、B細胞以外の細胞に認識されることもない。

魚にもアレルギーがあるか?
わかりませんが、細菌感染によって出血性の激しい炎症が起きる場合があるので、あれは一種のアレルギーでしょう。ただしIgEはないので、哺乳類で起きる「I型アレルギー」はないでしょう。(アレルギー反応の詳細は後の授業で触れるはず。)

クラススイッチが起こる条件・メリットは?
条件:つよい抗原刺激(たとえば感染状態)が続くこと。
メリット:抗体が働く部位・産生する部位に適した機能をもつような抗体のクラスを作ることができることがメリットと考えられます。

IgMよりもIgGが優れている点は?
大量に合成されて血中に放出されること。胎盤を通過できること。ある種のリンパ球やマクロファージを活性化して抗体依存性の細胞傷害反応(異物の細胞を殺すこと)を誘起できること、など。また、一般的にIgMよりも抗原に対する結合親和性が高い抗体に変化している場合が多い。

花粉症ではなかった人も、後天的に花粉症になることがあるが、なぜか?
おそらく、クラススイッチを制御する機構がだんだんと不全になって、IgEを作るようになってしまうからでしょう。(自分でも是非調べてみてください。)

サイトゾルとは?
細胞質内の、細胞内小器官以外の液体部分。
http://ja.wikipedia.org/wiki/細胞質基質

L鎖のLeader領域は何のために存在するのか?
L鎖を細胞外に分泌させるためのシグナルとして働く。

IgMのサイズは、IgE5個分くらいのサイズか?
サイズはおよそそれくらい。

スライド3のFig. 2の膜型抗体の左右にある膜蛋白質分子は何か?
詳しくは述べませんが、膜型抗体(別名BCR)には細胞内に活性化シグナルを伝達するための分子が会合しています(MB1、B29、非受容体型チロシンキナーゼなど)。それらが図の中に含まれていました。

抗体は自分自身で作ったものしか働かないか? 食べたら分解されるか? 注射したら?
他の個体から抗体をもらって働かせることができます。ヒトγグロブリン製剤はヒトの抗体を静脈内に点滴して、感染症を防ぐために使われます。また、ヘビ毒に対するウマ抗血清(抗体を含むウマ血清)は、ハブ、マムシ、コブラなどの毒ヘビに噛まれたときの救命用に注射されます。ただし、ウマ抗体はヒトにとって異物なので何度も打つことはできません。抗体を食べたら消化されますね。例外はIgA(プロテアーゼに抵抗性)。だから、IgAを含む母乳を飲むと、母親で成立していた免疫の恩恵を赤ちゃんが受けることになります。だから、乳児はそれほど感染症にならない。

硬骨魚類でIgM産生細胞がIgTを作れないことはわかったが、その逆はなぜ不可能なのか?
するどい質問!! まだわかっていません。

魚類免疫学Q&A090527

Igの語源は? IgA, IgM, IgG, IgE, IgDのA, M, G, E, Dの語源は? 哺乳類の5種類の抗体クラスの機能的な違いをまとめると?
Ig = immunoglobulin (免疫グロブリン)
D:全く不明。
M:巨大分子であることから(当初はmacroglobulinと呼ばれていた)。
G:血清タンパクの電気泳動における移動度からγ-globulinに分類されるため。
A:血清タンパクの電気泳動における移動度からβ2A-globulinと呼ばれていたため。
E:アレルギー性皮膚反応のErythema(紅班)を媒介することで発見されたので、そのEをとって。
*機能の違い
IgG:ヒト免疫グロブリンの70-75%を占め、血漿中に最も多い抗体である。血管内外に平均して分布する。補体活性化能を持つ。
IgM:ヒト免疫グロブリンの約10%を占める。通常血中のみに存在し、感染微生物に対して最初に産生され、初期免疫を司る免疫グロブリンである。補体活性化能が高い。
IgA:IgAはヒト免疫グロブリンの10-15%を占める。分泌型IgAは2つのIgAが結合した構造を持つ。IgA1は血清、鼻汁、唾液、母乳中に存在し、腸液にはIgA2が多く存在する。
IgD:ヒト免疫グロブリンの1%以下である。B細胞表面に存在し、抗体産生の誘導に関与するらしいが詳細は不明。
IgE:ヒト免疫グロブリンの0.001%以下と極微量しか存在しない。寄生虫に対する免疫反応に関与していると考えられるが、寄生虫の稀な先進国においては、特に気管支喘息やアレルギーに大きく関与している。


IgMなどの大きな抗体は最初からこの形に合成されるのか、それともIgGのような小さな単位がいくつか集合してできるのか?
分泌されるときにS-S結合がかかって五量体になります。

魚の抗体産生が環境水温で変動するということは、魚の抗体産生にとっての最適温度があり、その温度だと魚の寿命も延びるのか?
最適温度はあるでしょうが、寿命が延びるかどうかは不明。

ツベルクリンで結核に罹ったことがあるかを調べるということだが、気づかないうちに結核に罹っている、ということがあるのか?
あります。感染しても発病するとは限らないので。

授業が魚類免疫学なのに、魚の話しが出てこないのは少し残念。
今後もっと出てくるでしょう。

急な温度低下が抗体産生を阻害するとありましたが、逆に低い温度から高くするとどうなるのか?
なかなか渋い質問です。魚種によって異なるようですが、上昇であってもやはり急激な温度変化では抑制されるでしょう。(抗体産生を直接検査した報告は無いが、、、)

抗体がクラススイッチしないのは硬骨魚類だけなのか?
軟骨魚類もしません。

二次応答は一次応答に比べて何倍の抗体を産生できるか?
一概に何倍とは言えないです。ケースバイケース。

HV=CDRとは?
Hypervariable領域はcomplementarity-detemining regionと同じ意味です。

ハチに2回目に刺されるとショック死すると言われているが、これも抗原抗体反応によるのか? また、クラゲやウニに刺された場合も同じ事が言えるのか?
まさしくそうです。ただし、IgEが産生されて、その反応が強すぎてショックとなります。クラゲに刺されても起きる場合があります。
http://www.locopoint.net/danger/jfish.html
ウニに刺されたら? わかりませんが、ウニを食べてアレルギーでショックに陥る人がいるそうです。

B細胞が抗体産生細胞に分化する過程はどのようなものか?
「免疫学の基礎」第4版13章「B細胞の抗体産生細胞への分化とサイトカイン」を読んで勉強しよう! 簡単には、IL-4, IL-5, IL-6などのサイトカインの働きによって分化する。

免疫応答においてなぜIgMが最初に産生されるのか? 構造的にはもっとも複雑に見えるが、、、
V領域をコードするエキソンのもっとも近い下流にIgMのC領域をコードするエキソン群が位置するからです。

なぜ魚はクラススイッチを起こさないのか?
IgT、IgM、IgDの遺伝子しかないから。IgMとIgDは一緒に転写されて同時に発現します。IgTとIgMはリンパ球の成熟時にどちらかが選択されて、後にスイッチすることはないと考えられます。

哺乳類が持つ5種類の抗体クラスは、生物界でも多い方に属するか?
最も多いですね。

魚のIgTは実際に発現していないのに遺伝子配列だけからなぜ抗体であるとわかったのか?
Igに特有なアミノ酸配列のパターンがあるからです。(キーワードはIg superfamily)