2010年4月28日水曜日

魚類免疫学 2010/04/21 Q&A 

  • Phase 3の眼とは?

評論家 柳田邦男の著作(数冊のシリーズ)タイトルです。読みたかったらお貸ししますよ。
人間の意識レベルを5段階(5つの相=フェイズ)に分けます。
フェイズ0:睡眠、失神
フェイズ1:ぼんやり、疲労困憊、退屈、居眠り、酒酔い
フェイズ2:普通の生活時、定例作業時、リラックス時
フェイズ3:精神活動が活発、意識が明解・機敏
フェイズ4:興奮、慌て、驚愕、パニック
できるだけ自分の頭・意識をフェイズ3に保って、物事に接しましょう。ちなみに皆さんが授業に参加したときの意識レベルはもちろん「3」であるべきですが、時折、01の人を見かけますね。

  • 免疫強化剤でどんな病気を防げるのか?

細菌感染症、ウイルス感染症のいくつか。魚の場合は、連鎖球菌症、エドワジエラ症など。より詳しい情報はこのシリーズの後半の授業で。

  • 魚の病気でヒトにも感染するものはあるか?

今のところ見つかっていませんが、抗酸菌(Mycobacterium) の一種など、いくつかの魚病細菌は人間にも感染する危険性があるかもしれないために、現在その可能性と防止策が研究されています。

  • IgGIgEとは?

抗体分子の種類(クラスと呼びます)の名前です。Igimmunoglobulinの略。詳しくは、第4回目か5回目の授業で取り上げます。

  • ポリオの経口ワクチンは不活化ワクチン? 不活化されたウイルスを飲んでもワクチンとしては作用しないのでは?

不活化ワクチンは自ら感染する能力が全くないので、免疫系を刺激する活性が低く、特に経口ワクチンとしての効果は低いです。

  • 自然免疫の初期防御とは?

自然免疫は微生物感染の初期に重要でしょう、という意味です。

  • パスツールは、電顕でウイルスを認識することもできない時代に、どうやって狂犬病ウイルスの弱毒化ワクチンを作ることができたのか?



  • 人間でも抗生物質の耐性菌問題がある?

あります。例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus; MRSA)を調べてみて下さい。

  • 免疫強化剤などの副作用は?

あります。用いる物質によって異なりますが、発熱や炎症などが代表的だそうです。たとえば、こちら

  • 獲得(後天性)免疫の獲得と脊椎を獲得したことや顎を獲得したこととの間にどんな関係があるか?

これも別の機会に紹介することになると思いますが、顎を獲得するのに重要な原因となったゲノム重複によって、後天性の免疫機構に必要な遺伝子(の原形)も生まれた、と考えられています。顎と獲得免疫の間に機能的に関係があるとは考えられてはいないようです。

  • ツベルクリン反応などで発赤する時に、細胞レベルでは何が起こっているのか?

 血流が局所で増し、リンパ球などの白血球が主に集まってきています。

  • 魚でも臓器移植で拒絶反応が起きるか?

起きます。鱗移植などの実験で確認できます。

  • コイヘルペスは、結局どうやったら治るのか?

ちょうど良いタイミングと長さで水温を上げると死なずに済む場合があります。が、完全に治癒するわけではなく、ウイルスが体内に残り、再び発病させる場合があります。
http://www.agri-kanagawa.jp/naisui/news/koiherpestaisaku.htm

  • 魚類の抗体を人間に対して使うことができるか?

今のところできません。近年、ニワトリやダチョウの抗体を人間生活に利用する試みが始まりました。詳しくは「抗体」の授業で。

  • 自然免疫の起源についてわかっていることは?

最近の研究で、様々なことがわかってきました。まだナゾは多く残りますが、大変おもしろい研究テーマです。詳しくは、授業で説明します。ここには書ききれません。

  • ワクチンと免疫強化剤の違いは?

ワクチンは、獲得免疫系に長く記憶されるような防御能を与えます。免疫強化剤は、自然免疫系を活性化して幅広い範囲の病原体に対する防御能を少し上げるが、今のところその効果は、良くできたワクチンほどではありません。

  • 不要なアレルギー反応は完治できるようになっているのか?

なっていません。

  • 原口(げんこう)とは?

これらのサイトが参考になるかな?
http://ja.wikipedia.org/wiki/胚発生
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nkazu/kenbi/uni.htm
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nkazu/kenbi/kaeru.htm

  • ある抗生物質に対して耐性を持つ菌がその抗生物質を分解するのならば、抗生物質による環境汚染は起こらないのではないか?

おもしろい考え方です。それでも実際に起こっているのが何故かを考えてみるのも大事なプロセスでしょう。

  • 移植された臓器の拒絶を防ぐために、移植される側の免疫を殺しておけば良いのではないか?

その通り。実際に、臓器移植を受けた患者さんは、程度の差はありますが、拒絶反応を抑えるために一生の間、免疫抑制剤を服用する必要があります。問題は、免疫が抑制されることによって感染防御能も抑制されることです。

  • 世界での結核予防の方策は?

下記の資料が参考になるでしょう。
今後の結核対策(結核予防会)

  • 魚に注射するときに、血管をどうやって探すのか?

採血するときは、脊椎骨の腹側にそって動脈・静脈が走っているので、その空間的位置をイメージして針を刺します。人間のように外から太い血管を見ることはほとんど不可能ですし、脈に触れることもありません。水産学分野の3年生が学生実験で最近経験しているので、どんな感じかを尋ねてみてください。
腹腔内注射をするときは、腹壁の厚みをイメージして、深く刺しすぎて内臓を傷つけないように注意して針を進めます。

  • ヒトと魚類の免疫の仕組みはだいたい同じような感じなのですか?

大まかには似ていると言えるでしょう。

  • (たとえば)貝には獲得免疫が無いのでワクチンは効かないはずだが、それならば貝の養殖ではどうやって感染症を予防するのか? 抗生物質を使っているのなら、養殖した貝は食べない方がよいのか?

するどい質問です。まず、貝の養殖に抗生物質は使われません。カキやホタテガイには人工飼料・餌料を与えないので、抗生物質の投与自体ができません。獲得免疫が無いので、ワクチンはありません。自然免疫を刺激するような免疫強化剤の開発が急がれていますが、貝類(や軟体動物)の免疫機構の解明は著しく遅れています。研究者人口も少ないのが現状です。現在残された挑戦的な研究テーマだと思います。

  • 最近やウイルスが感染を引き起こす経路に違いはあるか?

感染経路は非常に様々です。各ウイルス、細菌で個別に解明する必要があります。

  • 結核(菌)にもインフルエンザのように「型」があるのか?

あります。株(strain)の違いと言います。様々な耐性菌も生じているそうです。(上記資料リンク参照)

  • 血液型不適合時の凝集反応の意義は?

血液型不適合時には凝集反応よりも溶血反応(赤血球が破壊される)が起きます。抗A抗体あるいは抗B抗体と、補体の共同作業で溶血反応が起きます。(詳細は補体の授業で説明します。)その反応の生理的意義は不明です。アレルギーの1種と言えます。

  • どうやって痩せたのか?

いつまでもデブと思うなよ」(岡田斗司夫 著)にあるレコーディングダイエット。
その時の記録はこちら。 

でも、現在本当に痩せる必要ある? あまり神経質になりすぎないように気をつけてくださいな。


  • アレルギーになりやすい人となりにくい人がいるが、何がちがうのか?

これは興味深い話しです。するどい質問。遺伝子によって支配されている部分と、環境によって影響される部分があります。そのどちらもが、完全には解明されてはいません。現在とても力を注がれている研究テーマの一つです。

  • 中国に行くのに何か予防接種したか?

まったくしませんでした。長期滞在の場合はこちらを参照。

  • 無脊椎動物の中でどのような動物門に免疫機構の存在が確認されているか?

ある種の自然免疫(食細胞、補体、抗菌ペプチドなど)は、ほぼすべての多細胞動物に認められます。もっとも原始的だと考えられる刺胞動物門にも。


2010年4月15日木曜日

比較免疫学特論-1

受講生は20人でした。さて今後増えるかな?減るかな?教室のサイズは私には快適でした。3-612で講義するのは久しぶりです。自分のオフィスから近いのは助かります。

いくつか質問・コメントを貰いました。(読みやすいように、質問の文章を若干修正している場合があります。)

-もし、ゼブラフィッシュが適応免疫が不要ということは、自然免疫でこと足りるようなパターンがあるということですか?
(イマイチ質問の意味を捉えられずにいますが、)自然免疫因子だけで処理できる微生物は沢山いるのだと思います。

-抗菌ペプチドの反応機構も授業で扱いますか?
あまり詳しくはやらないつもりでしたが、少し紹介します。でもこうしてせっかく質問があったのだから、当初の予定以上の内容にしようかなぁ。

-獲得免疫は全生物(動物)共通にあるのか?そうでなければ進化のどの段階で獲得したのか?
8倍体仮説、という内容の回に詳しく述べますが、私たち哺乳類がもっているような獲得免疫は、顎のある脊椎動物にだけ備わっています。

-Rag1の一つの遺伝子だけで多数ある抗体の特異性を決めているとは思えないが、他の抗体が作られていないという証明はどのようになされているのか?
スルドイ質問です。その証明は面倒なのでほとんどなされていません。私のラボではその面倒なことにきちんと向き合おうとしています。請うご期待。

-獲得免疫の記憶はどのように生体中に残るのか?
少数のリンパ球(例えばB細胞)が長い寿命を獲得して体内に残り、2回目以降の感染に備えています。

-スライドで示された系統樹(Phylogenetic tree)は何に基づいて描かれたのか(形態? rRNA?)
元々は形態に基づいていますが、現在では遺伝子配列(rRNA遺伝子もその一つ)に基づいた再検証がどんどん進んでいるでしょう。

2010年4月12日月曜日

魚類免疫学開講の案内

学部の講義 魚類免疫学(水曜1限、防音103)は、4月21日からスタートします。
下記に、シラバスに沿った授業計画を示します。順序や内容に若干の変更があるかもしれません。変更は授業中かこのサイトを使って予告します。


第1回 免疫学のルーツ
第2回 自然免疫と獲得免疫
第3回 自然免疫の液性因子による微生物分子パターン認識
第4回 自然免疫の液性因子による異物の排除
第5回 自然免疫の細胞性因子:白血球の機能
第6回 獲得免疫の特長:特異性と記憶能
第7回 獲得免疫を担う細胞:Tリンパ球、Bリンパ球
第8回 遺伝子再構成による抗原レセプターの多様性発現
第9回 抗原提示と免疫応答
第10回 サイトカインによる免疫応答の制御
第11回 アレルギーと自己免疫
第12回 免疫系の進化
第13回 魚類の免疫系の特長
第14回 水産無脊椎動物の免疫系
第15回 免疫機構を利用した水産生物の感染症制御

比較免疫学特論の予定・内容

生命機能科学専攻のM1諸君

比較免疫学特論(2単位)を4月15日(木)(2限、3−612)から始めます。
およその内容は、シラバスに記載の通りですが、下記に再掲します。ただし、順番や担当を含め、若干の変更があるかもしれません。変更は、受講者にこのサイトや授業中のアナウンスによってお知らせします。
テキストはありません。スライドプレゼンテーションと配布プリントによって授業を進めます。


第1回:免疫系の進化 概論(中尾)
第2回:自然免疫によるパターン認識(中尾)
第3回:TollTLR(中尾)
第4回:抗菌ペプチドの系統発生(中尾)
第5回:補体系の系統発生(中尾)
第6回:硬骨魚類補体系の多様性(中尾)
第7回:動物レクチンの構造・機能の多様性(中尾)
第8回:Bリンパ球機能の進化(杣本)
第9回:Tリンパ球機能の進化(杣本)
10回:細胞傷害T細胞とNK細胞(杣本)
11回:マクロファージ・樹状細胞と抗原提示(杣本)
12回:MHCの多様性(杣本)
13回:サイトカインの進化(杣本)
14回:無顎類のVLR(杣本)
15回:獲得免疫の系統発生(8倍体仮説)(中尾)