2011年6月19日日曜日

魚類免疫学 Q&A 110601,110608


Q ランダムな遺伝子再配置で抗原レセプターの遺伝子が完成するのに、抗原にピンポイントに(ぴったりと?)対抗(結合?)できる抗体などがすぐに生成されるものか?
ランダムな再配置などで生じた抗体/TCR遺伝子をもつ多数クローンのB/Tリンパ球が体内に蓄えられ、特定の抗原による刺激が起こると、その抗原に結合できる抗原レセプター分子を発現する特定のB/Tリンパ球クローンが増殖を開始します。このクローナルな増殖を進めるために、獲得免疫応答は日数を要します。

Q 体細胞点突然変異による多様化は、抗体遺伝子の多様化にどの程度寄与するのか?
定量的な評価は難しいです。点突然変異は、一旦出来上がった抗体遺伝子をさらに変化させて、より親和性の高い抗体を生じさせる(アフィニティー成熟)のに重要だと言われています。

Q VDJ接続の不正確性による多様化はH鎖だけにしか起こらないか?
A L鎖でも同様の仕組みが働きますが、L鎖のV領域はV断片とJ断片に分かれているので、VJの接続に不正確性が生じます。

Q 突然変異やVDJ接続の不正確性によって生じた配列が、その宿主にとって良いか悪いかを判断する仕組みを知りたい。(Q 抗原レセプターの多様性がこれほど高いと、自己組織に反応する抗体などが出現して周囲の細胞・組織に悪影響を及ぼさないか?)
A 自己反応性や(配列途中で終止コドンが入ってしまうような)不完全な抗原レセプターを膜状に発現することになったB細胞/T細胞は成熟の過程でアポトーシスに陥って排除されます。その詳しい仕組みは、下記の参考書を参照。

Q 母乳によって免疫力が高まるのはどのような仕組みか?
A 母乳中のIgA抗体が口腔・消化管において病原体に結合して、経口的な感染を防いでいます。

Q 鳥類や両生類はIgDを捨てたのか? もしそうならば、IgDを保持している意味は?
A 鳥類や両生類はIgG遺伝子座を失ったのでしょう。IgDの生理的機能がはっきりしていませんので、IgDを保持している進化的な意味はまだ不明です。

Q 第1回目からの全講義プリントをダウンロード可能にして欲しい。
A OKこちらの共有フォルダーに置いてます。ダウンロード期限に注意(6/28まで)。

Q スプライシングを起こす仕組みは、制限酵素によるDNAの特異的切断と関係があるか?
A mRNAのスプライシングは、スプライソゾームというタンパク質とRNAの複合体によって触媒されますので、制限酵素による作用とは直接の関係はありません。

Q 胎盤通過能をもつ抗体クラスはIgGだけか?
はい。

Q 選択的スプライシングによって(膜型と可溶型が)生じるのはIgMIgDだけで、IgGIgEIgAを作るためにはクラススイッチが必要ということ?
A その通り。クラススイッチは、ゲノムDNAで起こる非可逆的組換え反応であることに注意。

2011年6月1日水曜日

魚類免疫学 Q&A 110518

※講義資料はこちらのサーバーからダウンロードできます。

Q IgGIgDのドメイン数は同じだが、どこが異なるのか?
A 基本的なIgらしいアミノ酸配列を保持し、Igドメインの数も同じですが、互いに30%以下のアミノ酸配列同一性しか示しません。

Q IgMIgAがオリゴマーになる理由は何か?
A IgMは、H鎖のCH4ドメインンのC末端付近にあるCysが鎖間でジスルフィド結合を形成して五量体(哺乳類)となります。IgAは、J-chainと呼ばれる分子量約15 kDaのポリペプチドに2分子のIgA H鎖がジスルフィド結合することによって二量体化します。五量体IgMにもJ-chainが含まれますが、五量体化にはJ-chainは必須ではありません。

Q 抗原と抗体が大きな凝集物を作ったら、その塊は生命現象を阻害したりしないか?
A 大きさによるでしょう。過剰な免疫複合体は、組織に沈着しやすく、自己免疫疾患やアレルギーの原因になることがあります。(例:糸球体腎炎など)

Q 抗体のクラスによる化学的性質の違いは?
A 等電点、分子量などが異なりますが、純粋に化学的な性質と言うよりも、生物学的な性質(生体内での機能)の違いが重要です。

Q 魚類で最も多く作られるIgMの方がIgDよりも複雑な構造をもつのは何故か(大量に必要なものは簡単な構造になるように進化しなかったのはなぜか)?
A IgMIgDは両方とも進化的には祖先に近い抗体です。高等動物では、IgDのように分子量の小さなクラス(IgGIgA)が量的に沢山作られますので、「大量に必要なものは簡単な構造になるように」変化したと言えるでしょう。

Q ラクダの抗体にはH鎖しかないために不利な点はないか?
A ラクダの生存にとってなんら不都合はないようです。

Q 抗体産生において環境温度の影響を受けるのは硬骨魚類だけか?
A 変温動物には同様な傾向があるでしょう。

Q ヤツメウナギ(円口類)は抗体をもたないのにどうやって抗原(微生物)から身を守っているのか?
A 自然免疫因子と、円口類特有の抗体様分子が働いていると考えられます。興味がある人は、「Variable lymphocyte receptor」で検索してみて。

Q B細胞の分化の詳細を知りたい。
A 参考資料をどうぞ。
http://lifesciencedb.jp/dbsearch/Literature/get_pne_cgpdf.php?year=1998&number=4302&file=DXEWJQweka1Om1vrWQpSXQ==

Q 魚類は水中にいるの、空気中で生活する人間と同じタイプの免疫を持っていてそれが正常に働くのだろうか?
A 必ずしも同じタイプの免疫とは言えないでしょう。似た分子を使ってはいますが。

Q (抗体の)ドメインの大きさは一定か?
A 一つのIgドメインはおよそ100アミノ酸で、分子量1213 kDa

魚類免疫学 Q&A 110511


Q マクロファージによる抗原提示のメカニズムを詳しく知りたい。
A 抗原提示のメカニズムはこの授業の後半で説明します。(杣本先生担当)お楽しみに。キーワードは、外因性抗原の提示、MHCクラスIICD4、ヘルパーT細胞。

Q マクロファージは自身が作った殺菌物質から自分をどのように防御しているのか?
A 抗菌ペプチド、リゾチームなどは細菌に対してのみ働く特異性があります。各種消化酵素はファゴリソゾーム内に閉じ込められています。活性酸素、活性窒素は自身に非特異的に作用する可能性があるので、Superoxide dismutase、カタラーゼや各種抗酸化物質を産生して消去しています。

Q ニジマスリンパ球の貪食写真は偶然撮れたのか?
A 撮影した本人(オリオール・スニエル博士 写真右端)に尋ねました。1日8時間!以上、そして1週間以上をかけて電子顕微鏡による観察を続け、もっとも効果的な写真を撮影することに成功しました。そんな粘りと集中力が重要でした。


Q 貪食細胞は自分より大きな異物に対してはどのような反応をするのか?
A 異物をいくつかの食細胞で取り囲む包囲化を起こしたり、標的細胞に接着して活性酸素を浴びせて細胞障害作用を及ぼします。

Q 魚類の食細胞とヒトの食細胞ではどちらが優れているのか?
A 種による優劣を語ることはできません。例えば、アユの好中球は非常に高い活性酸素産生能を示しますが、それが優れた性質なのかどうかはわかりません。

Q 哺乳類の赤血球はなぜ無核になったのか?
A 答えの一説はこちら。
http://h-ninomiya.at.webry.info/200904/article_2.html

Q なぜ魚類や甲殻類の細胞株を樹立することが難しいのか?
A わかりません。

Q エビ・カニの組織内には細菌が存在していても問題ないのか?
A 細菌の性質(種)や濃度にもよるでしょうが、現実に細菌がいますから問題ないのでしょうね。ただし、カブトガニの血球のようにグラム陰性菌に非常に鋭敏に反応する例もあります。

Q 魚類や甲殻類の食細胞をうまく保存する手法を見つけたらスゴイですか?
A まじ、すごいです。