2009年4月20日月曜日

水族生化学特論20080513 Q&A

自然免疫と獲得免疫の協調について、どの程度確かなことがわかっているのか?それらの知見はどのような手法で明らかにされてきたのか?

問いが大きく、答えるべき事象がたくさんありすぎてとても書けません。参考書・Webを当たってみてはいかがか? キーワードは、抗原提示、サイトカイン、補体、オプソニン、抗体、NK細胞、T細胞、MHC など。

「どんな実験でどんな仮説が確かめられたか?」という問いはとても大事です。たとえば初回の講義で紹介した「精神と物質」などを読んでみてはいかがですか? 「科学者がどんな観察事実からどんな仮説を立て、それを検証するために実際にどんな実験が有効だったか/無効だったか」という例が生き生きと語られています。

 

なぜ、無脊椎動物は獲得免疫無しで生きていけるのか?

状況証拠から類推できるのは、自然免疫が感染防御に十分な機能を果たしているから、ということですが、これも証明することが困難な問いの一つです。

 

免疫学の基礎に関する説明も欲しい。

できるだけ予備知識的な話しも交えますが、時間の制約もありますので、参考書を各自で参照することも必要かもしれません。学部講義「魚類免疫学」の参考書に指定している下記の図書はコンパクトにまとまっていて便利です。

・免疫系のしくみ −免疫学入門− 大沢利昭訳 東京化学同人

・免疫学の基礎 第4版 小山次郎・大沢利昭著 東京化学同人

 

ノックアウトゼブラフィッシュの作成について詳細を知りたい。

基本的な作製原理は、ノックアウトマウスとは全く異なります。作成すると言うよりスクリーニングする、に近い。Target-selected inactivation と呼びます。詳細は下記の文献参照。

Wienholds E, Schulte-Merker S, Walderich B, Plasterk RH. Target-selected inactivation of the zebrafish rag1 gene. Science. 2002 Jul 5;297(5578):99-102.

 

Rag1遺伝子欠損によって獲得免疫が機能しないゼブラフィッシュはなぜ生存できるのか?

 

獲得免疫における抗原レセプター(無限に近い種類の抗原を特異的に認識するタンパク質=抗体やT細胞受容体)の多様性を生じる遺伝子組換えのメカニズムを詳しく知りたい。

 

円口類で見つかった抗体(のような分子)とはどのようなものか?

Leucine-rich repeatモジュールがいくつか連なった構造をとる点で、あたかも昆虫のTollや脊椎動物のToll-like receptorのようですが、遺伝子組換えによる多様性を獲得している点で、構造的にはまったく異なる抗体に類似します。詳細は別の講義時間で…

 

マウスのようにはノックアウト個体を魚で作ることができない理由は?

ES細胞と呼ばれる全能性(生殖細胞系列の)幹細胞が魚類では樹立されてないからです。

 

マンノース結合レクチンが細菌表面のペプチドグリカンを認識できるメカニズムは?

とりあえずは下記Webを参照してください。

http://www.gak.co.jp/FCCA/glycoword/LE-A06/LEA06J.html (生体防御因子コレクチン)

http://www.gak.co.jp/FCCA/glycoword/LE-B03/LEB03J.html (マンノース結合レクチンと補体系)

 

アレルギー体質は遺伝するか? 子どもの頃の食生活だけで決まる後天的なものか?

その両方が要因になると考えられてます。「体質」は親から受け継ぐでしょうが、「発症する/しない」「症状」は後天的な要因に大きく左右されます。

 

スギという魚の身は日本でも「トロカンパチ」として流通しています。

情報ありがとうございます。ネットでも関連情報を見つけました。でもこの名前ではちょっと問題ありますね。トロとカンパチはそれぞれ別の高級魚を連想させますから。命名にも規制が、、、

http://singten.air-nifty.com/arekore/2007/07/post_b9ea.html

 

環境(変動?)に強い生物は、自然免疫などの生体防御機構以外の要因があるのか?

物理的な環境への適応度は免疫とはあまり関係しないように見えますが、もしも関係してたらおもしろい。

 

獲得免疫が産生されやすい時期(特に活性が高い時期?)があるか?

ヒトの場合、免疫をコントロールするTリンパ球を成熟させる器官(胸腺)の大きさは10代後半をピークで、加齢と共に退縮しますので、それに従って獲得免疫能も下がっていくと考えられてます。

 

自然免疫において、レクチン(の構造? レパートリー? 濃度?)は人によって(個体によって)異なるか?

一人がもっているレクチンのレパートリーには個人差は無いはずですが、まれに、あるレクチンの欠損症があります。

 

抗原提示細胞とは具体的に何を指すか?

マクロファージ、Bリンパ球、樹状細胞などです。

 

ヒトが産生する抗体は、認識する抗原が異なっても同じ構造を持つか?

抗体の多様性発現機構、抗体分子の解剖学を講義する機会に説明しますが、認識できる抗原の違いは、抗原結合部位のアミノ酸配列の違いに起因します。

 

多細胞生物の系統樹には、まだまだ曖昧な点があります。

There are still several version of phylogenetic trees of metazoans. I showed one of them, in a very simplified format.

 

ヒトにおけるレクチンの生体防御機能にはどのようなものがあるか?

ある種の細菌感染やウイルス感染から身体を防御していることを示唆する報告があります。(たとえばマンノース結合レクチンを欠損すると、易感染症となる)

 

自然免疫を担う遺伝子は、ヒトゲノム中で一定の場所に集合しているのか?

必ずしもクラスターを形成しているわけではなく、さまざまな因子が様々な染色体上の多様な遺伝子によってコードされています。(No particular clustering of innate immunity genes.

 

円口類(無顎類)の抗体様分子はリンパ球で産生された後に分泌されるか?また、この分子のホモログは軟骨・硬骨魚類にも存在するか?

分泌されることが最近報告されました。この分子は今のところ円口類でしか見つかっていません。

 

TollToll-like receptorは違うもの?

どちらもLeucine-rich repeartドメインからなるI型膜蛋白質ですが、単にTollと言うと、節足動物に存在するものを指し、それにホモロジーを示す脊椎動物のタンパク質をToll-like receptorと呼びます。機能的に類似点がありますが、決定的に異なる点もあります。後日話す機会があります。

マウスや魚類から抗体を精製することは可能か? 魚類抗体をヒトに投与して機能させることは可能か?

精製は可能。水産の学生実験で扱ったような、、、、 魚類抗体をヒトに投与する応用が有効かどうかわかりませんが、ニワトリ抗体(特に卵黄に分泌されるIgY)のヒトへの応用は検討されています。

 

人が「免疫力が落ちている」と表現する状態は、獲得・自然免疫のどちらの機能が落ちているのか?

どちらの場合もあり得るし、両方の場合もあるでしょう。一概には言えない事柄です。

 

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