2009年4月16日木曜日

魚類免疫学080625Q&A

浸漬法ではワクチンはどこから魚体内に入るのか?

体表の上皮細胞に取り込まれる、鰓の上皮細胞に取り込まれる、鰓から直接血液中に取り込まれる、ワクチン液を飲み込んで消化管から取り込まれるなどのルートです。

 

うちの家族はおたふくかぜに2回罹ったが、、、、

実はそのような例外が時々起こります。原因は不明ですが、1回目の感染が弱くて免疫系の刺激が十分でなかった、1回目と2回目の病原体が変異によって若干異なっていた、などが考えられます。私も風疹に2回罹りました。

 

DNAワクチンはなぜ他のワクチンよりも高い効果を示すのか?

特にウイルスに対しては、その他の種類のワクチンではなかなか活性化されにくい、細胞性免疫が効果的に刺激されるからであると解釈されています。ただし、全ての病原体に対して常にDNAワクチンがベストである訳ではありません。

 

なぜ経口ワクチンの効果は低いのか? ワクチンが消化吸収されたり消化管内で変性・分解されるからか?

スルドイ質問です。経口投与されたワクチンが消化管内で分解・変性されやすいのは事実です。そのために、病原体をマイクロカプセルやリポソーム(人工の脂質二重層膜)で包むこともあります。

ワクチンの効果判定は複雑です。各病原体の本体の感染・侵入門戸における免疫(局所免疫)を強くしてやるのがもっとも効果的なはずで、多くの魚病菌は消化管内にとどまって消化管を感染門戸としています。それなのに、経口ワクチンがなかなか効かない理由は未だに明らかにされていません。ワクチン側の構造や組成の問題なのか、それとも魚の免疫機構がそもそもそのような性質(腸管免疫が先天的に弱い?)なのかさえもわかっていません。この点をみても、むやみにワクチンを開発しようとしてもダメで、魚の免疫機構自体をきちんと理解することが重要であることがわかります。

 

魚類ワクチンの認可はどんな機関がどのような手順で行うのか?

大学、製薬企業、公的試験期間(水産試験場)などが有効性や魚体への安全性などに関するデータを集め、独立行政法人水産総合研究センターに認可申請します。主に、そのセンター内の養殖研究所において審査が行われ、認可が決定されます。

DNAワクチンの作り方は? 働くメカニズムは?

動物細胞(通常は哺乳類の細胞)で働くプロモーター(サイトメガロウイルル(CMV)由来がよく使われる)を含むプラスミドベクターに抗原遺伝子を挿入して作成します。できるだけ必要最小限の要素だけを含むように、ワクチン用にデザインされた発現ベクターを利用する場合が多いそうです。これはが魚の細胞内に入ると、CMVプロモーターが細胞内のRNAポリメラーゼを働かせて転写・翻訳を促進し、抗原タンパクが合成されます。また、プラスミドはバクテリアで複製させて作りますが、原核生物から取り出したDNA自体が、免疫細胞を活性化させる働きもあります。

 

ワクチンを接種するのになぜ魚を麻酔する必要があるのか? 魚の麻酔はどのように行うのか?

魚が暴れると安全に注射できないし、魚自体にも傷がついて様々な病原体の感染を受けやすくなります。また、過度なストレスが魚にかかると、魚の免疫能が落ちることが知られています。

麻酔には、キナルジン、フェノキシエタノール、MS-222、オイゲノールなどがありますが、オイゲノール製剤が養殖魚用の認可されています。炭酸ガスによる麻酔法もあるそうですが(特許情報有り)、実用化されているかどうかはわかりませんでした。

http://www.echigo.ne.jp/~miyakoya/szi03041.htm  オイゲノールを含む麻酔薬FA100

http://bcnranking.jp/news/0602/060210_3382.html  炭酸ガスによる麻酔

 

アジュバントが免疫応答を促進させるメカニズムは?

アジュバントは、抗原そのものとは別に、抗原提示細胞やBT細胞を非特異的に活性化します。カビ、酵母、細菌に由来する細胞壁成分(ある種の多糖やリポ多糖)にそのような作用が認められています。また、物理的に抗原を吸着し、その抗原を長期にわたってゆっくりと放出するような物質もアジュバントとしての機能があります。単独だと短時間に分解・代謝されてしまうようなタンパク質などの抗原に有効です。

 

自ら不活化ワクチンあるいは弱毒ワクチンを選択できるのか?(人間の場合)

両方の種類が市販されているときは選択できるでしょうが、そんな例はほとんどありません。有効性と安全性のバランスからどちらかが認可されています。

 

抗体産生の二次応答ではIgMが一次応答よりも低いレベルにとどまるのは何故か?

どんな抗原にもいつもそのような応答が起こるとは限りません。考えられる理由として、すでにIgGなどを産生するためにクラススイッチを終えた記憶細胞がただちに増殖して抗体産生細胞に分化するので、IgM産生細胞の増殖がむしろ抑制されている可能性があります。また、IgM産生の記憶細胞自体が相対的に少ない可能性もあります。

 

養殖魚11匹に注射法でワクチンを投与しているのか?

注射の場合はそうです。作業量を軽減するために、連続注射器が用いられます。欧州では自動注射マシンも開発されています。

 

ワクチン接種した魚は食品として安全か?

通常ワクチンは可食部を避けて投与されます。また、不活化ワクチンには感染性は全くないし、弱毒ワクチンも魚体内には長くはとどまらないでしょう。さらに、弱毒ワクチンが想定されているウイルスの場合は、魚類に感染するウイルスはヒトには全く感染しない(生育可能温度の違いなどの要因)でしょう。

 

なぜ病原体を不活化してもワクチンとして働くのか?

抗原となるような分子が残っていれば、その病原体が死んでいても獲得免疫応答を起こすことができます。ただし、加熱や化学処理によって、抗原分子の構造が大きく変わった場合は、それに対して免疫応答して記憶細胞が残っても、実際に感染する生きた病原体の構造が異なるために、ワクチン効果が発揮されない場合があります。

 

同じビブリオ病不活化ワクチンで、アユ用、サケ科魚類用、ブリ用の間で何が異なるのか?

魚種によって、例えば同じVibrioでも異なる菌株(種内の変異体)が病原体となっているためです。

 

不活化ワクチンを接種してその病気が発症してしまうことは全くないのか?

不活化ワクチンでは病原体(細菌・ウイルスなど)は完全に殺してあるので、感染・発病する可能性はありません。

 

ヒト用のDNAワクチンを作ることは可能か?

可能です。実用化に向けて開発が競われています。安全性などを確立しないといけませんが。

 

魚の治験はどこで行われているか?

主に、大学や水産試験場などの公的機関です。感染性の病原体が環境中に漏れでないように特別にデザインされた水槽・飼育設備が必要です。(九大にはない-_-

 

DNAワクチンが体内に残留する期間は魚種によって異なるか?

異なります。したがって魚種毎に、季節毎に(様々な水温で)残留期間を求める必要があります。結構たいへん。

 

ペプチドワクチンの原理がわかりにくかった。

タンパク質性の抗原はペプチドに分解されてMHCによって提示されることで、免疫応答を引き起こすので、最初からそのペプチドそのものをワクチンにしようという試みです。まだ実用化には至っていませんが、うまくいけば、どんな配列でも人工的に合成できるという利点があります。

 

DNAワクチンは、細胞の核内DNAに組み込まれなくてもタンパク質の合成を行うことができるか?

核内に組み込まれる必要はありません。DNAワクチンであるプラスミドの中に転写を活性化するプロモーターが仕込んであります。

 

どのような基準で水産用ワクチンが認可されるのか?

有効性、魚に対する安全性・残留性、そしてその魚を消費する人間に対する安全性が主な基準です。

 

魚に経口ワクチンを投与する場合に、投与量をきちんと設定・制御できるのか?

ある集団(100〜数千尾)の魚としてみれば、1尾当たりの投与量を設定することは可能です。ただし、実際の摂取量に個体差は生じます。これを許容するかどうかは、コスト(努力量)と効果のバランスで考えるべきでしょう。

 

魚体内に投与されたDNAワクチンはどのように代謝されて消えていくのか?

通常DNAワクチンは動物の細胞内では複製されにくいので、細胞の分裂・再生によって徐々に濃度が薄まっていきます。また、細胞内で徐々にヌクレアーゼによる消化を受けるでしょう。

 

九大でも魚類ワクチンを開発しているか?

ワクチン全体の開発は行っていません。ワクチンの効果を高めるアジュバントの作用機構を解析したり、アジュバント分子のデザインを研究しています。

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