2010年5月12日水曜日

魚類免疫学 2010/04/28 Q&A

  •  微生物は、宿主の免疫機構に対して耐性を獲得することはないか?

すごくいい質問! 抗生物質やある種の抗菌剤に対する耐性とは全く異なりますが、たとえば抗菌ペプチドに対する耐性を獲得する可能性があることが知られています。これは、抗生物質に対する耐性菌よりもずっとずっと深刻な問題で、絶対に避けなければなりません。また、同じ種の細菌でも莢膜という構造を作れるようになった株は、免疫機構に対して抵抗性になると言われています。

  • リゾチームの薬効について詳しく知りたい。

こちらをどうぞ。
http://www.interq.or.jp/ox/dwm/se/se39/se3959001.html

  • インフルエンザに一度かかっても1,2年くらいで免疫が消えてしまうと聞いたが本当か?

本当にインフルエンザに罹患して治った結果として得た免疫は長期間続き、その効果も高いです。一方で、ワクチンを注射してつけた免疫の効果は弱くて短く、せいぜい1年しか持たないと言われています。その違いは? 今も不明な点が多い、重要な研究テーマの一つです。

  • レクチンによるオプソニン化のメカニズムがよくわからなかった。とくに白血球内に異物を取り込んでからの反応は?

白血球の機能についての次回の授業で取り上げるでしょう。

  • 人間よりも魚の方が多くの種類のα2マクログロブリンをもつということは、魚の方がプロテアーゼを阻害できる確率が高いか?

と思っていますが、証明はできていません。ちょっと都合が良すぎる考え方かも。うちの卒論か修論テーマとして研究してみない?

  • α2マクログロブリンは、病原菌の浸潤用のプロテアーゼだけでなく、宿主自身のプロテアーゼも阻害するのではないか?

素晴らしい質問! 阻害します。自身のいろんなプロテアーゼを阻害して、そのプロテアーゼが媒介するさまざまな生理的反応を制御しています。

  • レクチン自身が殺菌活性を示すことはないのか?

少ないですが、中には、殺菌・細胞傷害活性を示すレクチンもあります。が、糖鎖を認識して結合するだけで殺菌できるというレクチンはほとんどありません。

  • 抗菌ペプチドが細菌に作用するメカニズムを知りたい。

もっとも単純な考え方は、塩基性のペプチドが細菌の酸性を示す細胞膜に静電的に結合し、さらに疎水性アミノ酸の塊で細胞膜の脂質二重層に貫入して細胞膜を壊す、というもの。他にもいろいろなメカニズムがあるそうです。それ自体が現在でも重要な研究テーマです。

  • キチンにダイエット効果があると聞いたが本当か?

知りません。カロリーにはならないので、こればかり食べてたら痩せるかも。基本的に、「何かを食べたら痩せる」という話しは信じないないのが吉。


  • エビ・カニから抽出したGlcNAcに対して、エビ・カニアレルギーの人はアレルギー反応を示さないか?

エビやカニのアレルゲン(アレルギーの原因となる抗原)はトロポミオシンというタンパク質であることが多いので、GlcNAcやキチンがアレルギー反応を誘発することはないでしょう。

  • 鼻水を止める薬の副作用で喉が痛くなるのはリゾチームと関係するか?

さて?わかりません。でもリゾチームにアレルギーを示す人がいないわけではないので、もしかするとアレルギーの一症状かも? 卵アレルギーですか?

  • グラム陽性菌のペプチドグリカン層と陰性菌のペプチドグリカン層は同じ構造か?

グラム陽性菌のペプチドグリカン層の方がずっと分厚く、タイコ酸やリポタイコ酸を含む点が陰性菌とは異なります。

  • レクチンはどんな細菌でもオプソニン化できるか?

結合できればオプソニン化できるでしょう。結合できないならば(そのレクチンが認識する糖鎖構造が表面になければ)もちろんオプソニン化はできません。そんな細菌もいることでしょう。

  • 人間はキチンを分解できるか?

食べたキチンは分解できません。ヒトはキチン分解活性のあるキチナーゼを分泌しません。

  • α2マクログロブリンはプロテアーゼによって切断された後に、元に戻って再び阻害活性を示すことができるか?

ありません。一旦切れたペプチド結合は自発的には繋がりません。新たなα2マクログロブリンが合成・分泌されるのに依存します。


  • 多切れ苦吟が複数のGlcNAcに結合して全体的に強い結合力を示すのは、単に結合部分が増えるからか? レクチンの形が変わったりしないか?

よいところに気が付きました。基本的には結合点が増えるためと考えられていますが、タンパク質によっては、よりスムーズに結合できるように立体配座が変わる例もあります。そのためにフレキシブルな部分を内包しているタンパク質もあります。

  • 白血球の内部のリゾチームが食作用をする時に外部に漏れてしまわないか?

スルドイ質問です。僅かには漏れる可能性があります。ただし、血中やいろんな体液にもリゾチームは存在するので、漏れて困ることはないようです。


  • インターフェロンの詳細を知りたい。

後の回で、「サイトカイン」を説明する際に触れます。もちろんinterferonということばでいろいろ検索してみるのもよいでしょう。

  • 講義資料(プリント)をWebからダウンロードできるようにして欲しい。

ちかいうちにそのようにできるようホームページを整備します。

  • グラム陽性菌細胞壁のペプチドグリカン層に含まれるタイコ酸やリポタイコ酸の役割りは?

一般的な役割りはよくわかりませんが、黄色ブドウ球菌では、宿主細胞表面への接着やバイオフィルム形成、さらに滑走能力を発揮するためにタイコ酸が必要なのだそうです。
http://www.f.u-tokyo.ac.jp/~bisei/research/kaito/kaito.html

  • なぜ魚は多種類のα2マクログロブリンを持つのか?

複数のα2マクログロブリンを生じたメカニズムは、魚類に特異的な遺伝子重複によります。複数あることの生理的な意義は、よくわかりませんが、複数あることでさらに多様なプロテアーゼを阻害できる、1種類毎の阻害機能が劣るので、複数持っていて初めて一人前なのか、いろいろ説があります。

  • α2マクログロブリンは菌を誘導して補足する?

いえ、プロテアーゼ分子を補足します。

  • GlcNAcを接種するとなぜ関節痛が和らげられるのか? 神経伝達物質?

なぜでしょうね。私は効果に懐疑的なので、気のせいじゃないかと疑ってます。

  • タンパク質などを命名する際に何かルールがあるのか?

酵素には命名規則がありますが、一般的にはタンパク質に命名規則はありません。しゃれた、かっこいい名前を付けるのがいいです。しばしば、P+その分子量(kDa)で名付けらる(たとえばP100とか…)ことがありますが、芸がないと思います。

  • 抗菌ペプチドの立体構造で疎水性と塩基性のアミノ酸毎に配置が分かれる、というのはどのような働きをするためか?

同じ化学的性質をもった側鎖のアミノ酸がいくつか集まると、その側鎖の特長が強調された効果(たとえば塩基性、疎水性)がはっきり表れるようになります。


  • α2マクログロブリンのベイト領域のワナにひっかかって切断するプロテアーゼはどれくらいの割合でいるのか?

直接数字で表すことができませんが、非常に広範囲のプロテアーゼを1種類のα2マクログロブリンが阻害できると言われています。

  • 自然免疫は卵や胎児の時から作用するのか?

たとえば、魚の受精卵や孵化前の胚にはすでに自然免疫因子(レクチンや補体など)が含まれています。自然免疫因子の全てではないが、ある種の因子は生まれながらにして備わっています。

  • 自然免疫と獲得免疫で認識できるものそれぞれに共通な構造はあるか?

自然免疫は、微生物関連分子パターンを見分ける分子による異物認識を共通基盤としています。おもに細胞壁を構成する糖鎖、リポ多糖、二重鎖RNA、あるしゅのDNAなどを認識します。獲得免疫が認識できる分子構造は定義できません。敢えて言えば、自分以外、と表現するしかないですね。

  • 身の回りにある「抗菌仕様」はどのような仕組みによるのか?

あまり知りません。光触媒による抗菌処理は、光が当てて発生するラジカルが殺菌作用を示すのだと理解しています。それ以外にもいろいろあるのでしょうが、調べても「抗菌」の定義自体が曖昧です。
ちなみに、これほど「抗菌」が無思慮にもてはやされているのは日本くらいだと言われています。潔癖症が過ぎるのでしょう。不健全な社会だと感じます。

  • 外骨格にキチンをもつ昆虫が、キチン分解活性をもつC-typeのリゾチームを持つのはなぜか? カブトガニのGlcNAc反応性レクチンは、カブトガニの甲羅(キチン質)には反応しないのか?


外骨格のキチンは、体液と直接接してはいないので、体液(=血リンパ)中のレクチンやリゾチームが反応することはありません。

  • α2マクログロブリンの血中濃度の調節はどのようなメカニズムで行われているのか?

α2マクログロブリンは、ヒトでは主に肝臓で産生されます。その遺伝子の転写活性(mRNA産生量)はさまざまなサイトカインで制御されており、複雑です。ある種の炎症でも転写活性が上がります。魚類でも同様に、たとえば細菌や寄生虫の感染で産生が刺激されるという報告があります。

  • 抗菌ペプチドのフォールディングは自発的に行われるのか?それともシャペロンを必要とするのか?

普通は自発的でしょう。ペプチドは小さいので、とくにシャペロンがなくても可逆的に変性と折り畳みが可能です。

  • C-typeのリゾチームが熱に安定なのはなぜか?

生理的にはそんな熱安定性は必要ないですが、産業的利用に向けて、さらに耐熱性を高める試みもあります。
http://patent.astamuse.com/ja/published/JP/No/2007300831

  • エビ・カニの殻のお値段は?

わかりません。業者も教えてくれないだろうなぁ。

  • α2マクログロブリンの立体構造の変化を見た人がいるのか?

電子顕微鏡で直接分子構造の変化を観察した例があります。

  • インターフェロンはC型肝炎で用いられる薬と同じモノか?

同じです。ただし、薬に使われているのは組換えタンパクとして生産したインターフェロン。

  • 魚類に複数あるα2マクログロブリンはお互いにどのように異なるのか?

コイで私たちが調べた限りでは、ベイト領域の配列が特に大きく異なります。それぞれが狙う?プロテアーゼが異なるのかも。

  • 上皮細胞で抗菌ペプチドが作られるのに、カビが生えたパンをなどを食べるとどうしてお腹を壊すのか?

量の問題でしょう。また、お腹を壊す、という反応そのものが免疫反応の一種(たとえば下痢は、有害・有毒なものを体外に素早く排出する反応と解釈できます。)とも考えられます。こちらの本が参考になりますよ。
進化から見た病気 (ブルーバックス) 栃内 新 著

  • インターフェロンの大きさは?

分子量が1500020000くらい。直径およそ3 nm

  • ガチョウはなぜG-typeリゾチームをもつのか? C-typeは持たないのか?

C-typeG-typeの両方を持ちます。G-typeだけを持つ動物は見つかっていません。


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